光を記憶する宝石
カンボジア産 UVテネブレッセントジルコン
〜紫外線によって表情を変える、不思議なジルコンの世界〜
宝石の魅力は、美しい色彩や煌めきだけではありません。
光の種類によって異なる色に見える宝石や、紫外線を受けて蛍光を発する宝石など、自然界にはさまざまな不思議な性質を持つ宝石が存在しています。
今回ご紹介するのは、そんな宝石の中でも少し変わった性質を持つ、カンボジア産のジルコンです。
まずは、こちらの写真をご覧ください。

【写真:1.056ct/UV照射前・照射後】
左側は透明感のある淡いブルーグリーン。
そして右側は、深みのあるブラウン。
実はこれ、まったく同じジルコンを撮影した写真です。
左が紫外線照射前、右が照射後。
紫外線を照射することで、ブルーグリーンの色彩がブラウンへと変化しました。
今回GTJでは、このような不思議な性質を持つカンボジア産ジルコンを、ひとつの小ロットとして入手する機会がありました。
そして、それぞれの石に紫外線を照射してみると、さらに興味深いことが分かりました。
同じロットのジルコンでありながら、色彩変化の強さや変化後の色合いが、一石ごとに大きく異なっていたのです。
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紫外線によって色が変わる「テネブレッセンス」
今回のジルコンに見られるような、光の照射によって色彩が変化し、その後、元の色彩へと戻る性質は「テネブレッセンス(Tenebrescence)」と呼ばれています。
代表的な宝石としては、ハックマナイトが知られています。
ここで興味深いのは、一般的なカラーチェンジ宝石との違いです。
例えば、アレキサンドライトは、太陽光と白熱灯など、照明の種類によって異なる色に見えることで知られています。
これは、光源に含まれる波長の違いによって、私たちの目に映る色彩が変わる現象です。
一方、テネブレッセンスは少し異なります。
光を受けることで宝石内部の光吸収特性が変化し、照射を終えた後もしばらく変化した色彩が残ることがあるのです。
今回のジルコンも、紫外線を照射する前と後では、同じ照明の下でも異なる色彩を見せます。
そして、適切な光を照射することで元の色彩へと戻っていきます。
まるで光を記憶しているかのような、不思議な現象です。
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ブルージルコンの変色についての研究
実は、ブルージルコンの紫外線による変色現象については、2016年にGIA(米国宝石学会)が研究結果を発表しています。
宝石学専門誌『Gems & Gemology』に掲載された研究では、ブルージルコンに長波紫外線を照射し、色彩や光の吸収特性がどのように変化するのかを調べています。
研究には、11石のファセットカットされたブルージルコンと、カンボジア産の結晶試料が使用されました。
その結果、非常に興味深い現象が確認されています。
ブルージルコンに長波紫外線を数十秒〜数分間照射すると、ブルーからブラウンへと色彩が変化したのです。
さらに、変色したジルコンに白熱灯の光を照射すると、元のブルーへと戻ることも確認されました。
研究では、約20分間の白熱灯照射によって色彩がほぼ回復し、光の吸収特性も元の状態に戻っています。
また、紫外線照射後のジルコンを暗所に1週間保管したところ、ブラウンの色彩が維持されていたことも報告されています。
つまり、紫外線によって生じた変色は、照射をやめた瞬間に消えるわけではありません。
そして、元の色彩へ戻るためには、可視光が重要な役割を果たしていることが分かりました。
※これらは実験条件下で確認された結果であり、すべてのジルコンが同じ条件や時間で変色・回復するわけではありません。
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なぜブルーがブラウンに?
ここからは少しだけ宝石学のお話です。
宝石の色彩は、結晶がどの波長の光を吸収し、どの波長の光を透過するかによって決まります。
GIAの研究では、ブルージルコンに紫外線を照射すると、結晶内部に新たな光の吸収が生じることが確認されています。
この変化によってブラウンの色調が加わり、元々のブルーとは異なる色彩に見えるようになります。
そして、可視光を照射すると、この新たな吸収が解消され、元のブルーへと戻ります。
つまり、宝石が別の物質に変わっているわけではありません。
結晶内部の光を吸収する仕組みが一時的に変化することで、色彩が変わって見えるのです。
この現象には、結晶内部の欠陥などが関係していると考えられていますが、その詳細な仕組みには、まだ解明されていない部分も残されています。
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同じロットから生まれた、さまざまな色彩変化
ここからは、今回GTJで実際に観察したジルコンたちをご紹介します。
今回のロットには、ブルー、ブルーグリーン、グリーン、そしてブラウンのニュアンスを持つジルコンが含まれています。
紫外線照射前の色彩だけでもさまざまですが、照射後の変化にも大きな個体差が見られました。
ブルーからブラウンへ — 1.056ct

【写真:1.056ct】
今回のロットの中でも、特に劇的な変化を見せる一石です。
紫外線照射前は、透明感のある淡いブルーグリーン。
ところが紫外線を照射すると、全体にブラウンの色彩が現れ、まるで別の宝石のような表情へと変化します。
GIAの研究で報告されているブルージルコンの変色現象を思わせる、非常に分かりやすい例です。
全体にブラウンを帯びる — 1.375ct

【写真:1.375ct】
こちらも顕著なテネブレッセンスが観察された一石です。
照射前は、ブルーグリーンと淡いブラウンが共存する繊細な色合い。
紫外線照射後はブラウンの色調が強まり、落ち着いた温かみのある色彩へと変化します。
色彩の変化が大きいだけでなく、ブルーとブラウンが混ざり合うような複雑な表情が印象的です。
ブルーグリーンからグリーンへ — 1.168ct

【写真:1.168ct】
こちらは少し異なる変化を見せます。
紫外線照射前は、ブルーのニュアンスが感じられる深いブルーグリーン。
照射後はブルーの印象が弱まり、グリーンとグレーの色調が少し強くなりました。
今回のロットでは、必ずしもすべての石がブラウンへ変化するわけではありません。
ブルーからブラウンへ、ブルーグリーンからグリーンへ。
同じロットの中でも、それぞれのジルコンが異なる色彩変化を見せてくれるのです。
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そして、もうひとつの興味深いグリーンジルコン
グリーンジルコン 1.256ct

【写真:1.256ct】
今回のロットには、最初からグリーンの色彩を持つ一石も含まれていました。
このジルコンは、一般的なグリーンジルコンとは少し異なる印象を持っています。
ブルージルコンを思わせる鮮やかなブルーグリーンの煌めきと、深みのあるグリーンの地色。
さらに、ジルコン特有のダブリング(二重像)やファイアーも確認できます。
ジルコンには、結晶構造の状態によってハイタイプ、ロータイプなどの分類があります。
一般的なグリーンジルコンにはロータイプが多く見られますが、今回の一石は、ハイタイプを思わせる強い光学的特徴を備えています。
正式な分類には屈折率などの測定が必要ですが、非常に興味深い存在です。
そして、この石にも紫外線を照射してみました。
すると、他のジルコンのような大きな変色は起こらず、元々のグリーンにわずかに深みが増す程度の変化が見られました。
同じロットにありながら、劇的に色を変える石もあれば、ほとんど色を変えない石もある。
この違いがどのような要因によって生まれるのか、非常に興味をそそられます。
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カンボジア産ジルコンと加熱処理
カンボジアは、美しいブルージルコンの産地として知られています。
一般的に市場に流通するブルージルコンの多くは、ブラウン系のジルコンを加熱することでブルーの色彩を得ています。
今回のGTJのロットについても、加熱処理が施されている可能性があると考えていますが、現時点では処理履歴を確認できていません。
また、加熱処理とUVテネブレッセンスの関係についても、すべてが明らかになっているわけではありません。
今回のように、同じロットの中で変色の強弱に大きな違いが見られることも、ジルコンという宝石の奥深さを感じさせます。
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光によって変化する、もうひとつの美しさ
宝石は、何百万年、何千万年という長い時間をかけて自然界で形成されます。
その長い歴史の中で、結晶内部にはさまざまな元素や構造上の特徴が生まれます。
そして、そのわずかな違いが、私たちの目に映る色彩や煌めきに影響を与えています。
今回のカンボジア産ジルコンは、そんな宝石の奥深さを改めて感じさせてくれるロットでした。
鮮やかなブルー。
深みのあるグリーン。
そして、紫外線によって現れるブラウン。
それぞれの石が異なる表情を持ち、光を受けることで、さらに新しい一面を見せてくれます。
実際に一石ずつ紫外線を照射し、それぞれの変化を観察していると、宝石の世界にはまだまだ知らない魅力があるのだと感じます。
宝石は、ただ美しいだけではない。
その小さな結晶の中には、自然が作り出した不思議な世界が広がっています。
ぜひ今回のUVテネブレッセントジルコンを通して、そんな宝石の新しい魅力をお楽しみいただければ幸いです。
GemTreeJapan
イルモ
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参考文献
Nathan Renfro (2016)
Reversible Color Modification of Blue Zircon by Long-Wave Ultraviolet Radiation
Gems & Gemology, Fall 2016.
Gemological Institute of America (GIA)
論文(英語)
※本記事では、上記の公開研究を参考にしながら、GemTreeJapanが実際に観察したカンボジア産ジルコンの特徴をご紹介しています。個々の作品について鑑別機関による分析や鑑別を受けたものではありません。